*9が指定したカプ・シチュに*0が萌えるスレPart13
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@801板
929 名前: 風と木の名無しさん [sage] 投稿日: 2008/11/02(日) 21:40:41 ID:W5p2ZUzo0
小説家志望の書生
930 名前: 1/2 [sage] 投稿日: 2008/11/03(月) 01:35:47 ID:+4kliYfJ0
この世の全ては文字に出来るさ。
安酒と興奮に頬を赤く染めて友人は高々と言い放った。
「知ってるか? 僕は恋を謳い、春を謳い、憎悪を謳う!
血を流さずに世界を変えるのさ! 文字は素晴らしいよ!
文学は人類の最高傑作だ!
人は薄墨と安紙で出来た薄っぺらいものに人生と深遠と世界を見る!
こんな素晴らしいことが他にあるかい?
知ってるか斉藤! 僕は何もかもを生み出すんだ! この指の先から!」
知ってるよ、と巻きタバコの合間に応えれば
友人はますます楽しそうに頬を染めて笑った。
「世界は美しく、人生は素晴らしい!
美しいものを美しい言葉で飾り立てるのは無粋だ、それなら、なぁ斉藤、
君ならこの素晴らしい世界をどんな風に書く? 僕はなんて書く?
知ってるか斉藤、それを考えるのがどれだけ心弾むことなのか!」
知ってるよ。
もう一度応えれば友人は君は知らないさと酒を煽った。
その、喉の、白さ。
美しいものを美しい言葉で飾るのは無粋だ。
ただ友人の喉の白さに目が惹きつけられた、それだけで十分だ。
「知ってるか斉藤! 僕がそこに何を見ているか!
表現できないものなどないさ、人の心は深く、脆く、
けれど胸を掻き毟りたいほどの熱を飼う! その美しさを、君は知ってるか」
「知ってるよ」
知らないだろう斉藤! と頭から決め付けて友人は笑う。
その底抜けの声はやがて静かな寝息に代わった。
ようやくご就寝らしい。
全く、彼は酒が入ると鬱陶しいくらいの詩人で演説家だ。
静かに本を読んでいる普段の姿からは想像も出来ないほどだ。
こんな風になるこいつを、きっと他の奴らは知らないだろう。
分厚い眼鏡の奥に隠された彼の素顔を知る者が自分以外誰もいないように、
彼の胸に眠る大きな情熱を知る者も自分以外誰もいない。
931 名前: 2 /2 投稿日: 2008/11/03(月) 01:36:40 ID:+4kliYfJ0
なぁ、知らないだろう夏目。
友人が眠り込む前に残した言葉をなぞってそっとその頬に触れた。
酒に赤らんだ頬はやわく、白く、どこまでも美しい。
これをどう表せばいいのか、オレはその言葉を持たないけれど。
「知らないだろう? 夏目」
お前にはけして書けない物がある。
世界は美しく、人生は素晴らしく、
人の心もまた美しいと言い切れるお前にはけして書けない物が。
人は苦悩する生き物だ、人生は挫折の繰り返しだと知っているお前でも、
絶対に書けない物があるんだ。
同性を慕うあまり世界を憎み、己の性を憎み、相手の性を憎み、
そうして何もかもに呪詛を吐いて、それでもと望む、
自分自身すら食われてしまうような衝動と、それに枷をつけて
なんでもないような顔で傍に在って、幸せになって欲しいと思う傍ら
引きずり込んでやりたいと思う、そういう、果てのない矛盾だらけの
無様な感情を、美しいお前はきっと書けない。
それともお前はそれすらも美しいと謳うか。
憎悪を謳うと断言したお前は、俺の感情すら肯定してくれるか。
俺のお前に向ける感情すらも、お前は心を弾ませて表現してくれるか。
俺の世界を変える言葉を、お前は持っているか。
そんなもの、
「……知らないだろう、夏目」
知って欲しくないんだ、夏目。
このとんでもなく美しい指先から、そんな汚れたものを生み出さないでくれ。
指先への口付けはとてつもなく甘くて苦かった。
続・夏目友人帳 1 [DVD]
posted by moge at 17:55
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