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@801板
529 名前: 風と木の名無しさん [sage] 投稿日: 2009/06/02(火) 21:07:57 ID:t43tisA00
文系世話焼き×理系ひきこもり
530 名前: 風と木の名無しさん 投稿日: 2009/06/02(火) 21:08:25 ID:6/4bR4kD0
離れ離れだった兄弟
531 名前: 風と木の名無しさん [sage] 投稿日: 2009/06/02(火) 21:08:35 ID:/TubZaMXO
女好き×女嫌い(あるいは女嫌い×女好き)
532 名前: 1/2 [sage] 投稿日: 2009/06/03(水) 21:03:07 ID:R2Ck+5kt0
カーテンを思い切りシャッと開ける。
「……まぶしい」
かすかな抗議の声が万年床の中から聞こえてくる。布団の中でまぶしいもんか。
「昼なんだよ、起きろ」
この春大学生になったばかりの聡文が引きこもりだしたのは、3週間前からだ。
小中高と、一学年違うだけでずっと後からついてきた聡文は、大学までも同じ所についてきて、
何故かゴールデンウィーク明けから講義に出て来なくなった。
1年先輩で学部も違う俺が、こうして毎日面倒を見ている。
と言っても、コンビニで適当な食べ物を買って食べさせるぐらいだが。
親元を離れるにあたって、幼なじみとして、奴のお母さんにくれぐれも頼まれているのだ。
「もう、来ないで」
聡文は布団から顔も出さない。
「お前ね、俺が来なかったら飢え死にするぞ」
「コンビニくらい自分で行く」
「だからって、1人で生きていけるわけもないだろう」
もぞ、と聡文は身を起こした。一週間ぶりに顔を見た。
「1人で生きていく、だから帰って」
「馬鹿なことを」
笑い飛ばそうとして、思いがけず強く否定された。
「裕紀にいちゃんにはわからない」
うつむいたまま、それでも引きこもってから初めて自分から話し出した聡文は、
布団に隠って暑かったせいか真っ赤だ
「──生物は。遺伝資源を残すだけの運び屋に過ぎない」
「へ?」
533 名前: 2/2 [sage] 投稿日: 2009/06/03(水) 21:04:58 ID:R2Ck+5kt0
「俺という存在は、体の細胞生かす仕組みってだけなんだ、
生物は連続する化学反応の連続だよ、
個々の細胞が生きて、組織になって器官を形成し、歩いたり食べたり考えたりしてるけど、
感情は神経伝達物質の結果にすぎず、細胞の生命活動はただの膜反応だ、
だから……俺が生きていくのに、裕紀にいちゃんは関係ない。
俺は俺の化学反応を最低限維持するから、もう来ないで」
「ちょ、ちょっと、何言ってるの?」
高校の生物で聞いたような事を淡々と並べる聡文に、頭がついていかない。
「……はは、青春じゃん?生きるって何って話なんだ?」
努めて明るく返そうとしたら、まるで聡文をからかうような調子になった。
「笑うなよ!出てけよ!」
今度こそ聡文は叫んだ、もう堪えられないというように。
「……裕紀にいちゃんは、大学に入っていろんな女の子とつきあってて……
俺は……もう一生誰も好きにならずに生きていくから……!」
はっと思い当たったのは、ゴールデンウィーク前に無理矢理付き合わせた合コン。
初めての合コンということで、初心さが受けて聡文はモテモテだった。
思い出す、涙目の聡文。助けを求めるように俺を見た……
「だから、帰ってよ……もう来るな!
裕紀兄ちゃんはそうやって結婚でも何でもすればいい!」
聡文は再び布団に潜り込む。合コンの時と違って、俺を拒むように。
フ、フ、と笑い声が聞こえた。いつの間にか笑っている俺の声だった。
「……お前誰に向かって口聞いてるんだよ、お前が、1人で生きていける訳ないでしょ」
嘲笑?……違う、俺は頭に来たのだ。
「人間何のために生きてるかって言や……愛だよ、愛」
つまり聡文は理系なのだ。ならこっちには文系の理屈がある。
「歴史も文化も芸術も、人間が愛憎の力で作り出してきたものだ、それが、生きる理由だよ」
無理矢理布団に潜り込む。抗う腕と足を絡めて封じ込める。
耳に吹き込んでやった。
「お前、考えすぎなんだよ……人は、愛するだけで生きていける生き物だ」
少しだけ、責任重大だな、と思った。