【colour】色で801【color】
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@801板
158 :炬燵物語1/5:2011/11/26(土) 00:19:21.95 ID:qsL/dY6z0
「今日は寒いので炬燵を出しました」
家電の受話器から同居人の携帯電話に短いメッセージを吹き込み、
青木 貢(68)は時計を見た。
「4時か・・・」
炬燵を出すのに意外と時間がかかっしまったようだ。どうしてもコンセントコードが
見つからず、マンションの備え付けの納戸の中をひっかきまわしクローゼットの中も
引っ張り出した。
(淳司が引っ越してきた時に色々変えたからな)
散々探した揚句、炬燵のコードはなんとテレビ台の引き出しの中でコンセントの
延長コードと一緒にしまわれていた。
「これから片付けて買い物に行って、と・・・」
(淳司は6時には帰ってくる)
青木は一息付くためにキッチンの冷蔵庫に向かった。中からペットボトルの
お茶を出すと湯呑にトクトクとつぎ、電子レンジのお燗モードで温める。
ほどなく電子音がし湯呑を電子レンジから取り出すと、青木はそろそろとお茶をすすった。
「・・・ふぅ」
一息吐きだすと青木は炬燵が置いてあるリビングの向こうの窓の外を見た。
晩秋の太陽は早くも傾き黄色い光を放っていた。
159 :炬燵物語2/5:2011/11/26(土) 00:20:07.54 ID:qsL/dY6z0
同僚の白川 淳司(67)と同居し始めたのは一年前の夏・・・
とある企業の同期で部署も一緒だった白川の事を青木は初めから好きだった。
何も言えぬまま10年同僚として過ごしてきた。
ある日朝礼の後、青木は白川から
「相談があるので、就業後付き合って下さい」
と言われ指定された飲み屋へと向かった。
二人で飲むことは過去一度もなかった。大抵大宴会の席で、供に部下との
交流も済んだ後に無礼講の大騒ぎの中で酒を酌み交わすぐらいだった。
酒は白川の方が強かった。酔いに任せて胸の内を伝えようと
何回か頑張ったが、青木はいつも酒に飲まれてしまい、失敗に終わっていた。
(あの日・・・・・)
飲み屋の個室で白川から「早期退職」の話を聞き、青木は頭を
強打されたような強い衝撃を受け、視界は暗幕に閉ざされ見た物は
脳の記憶に残らなかった。
少し間をおいて白川はゆったりとした口調で言葉を続けた。
「貢くん、君にだけは話しておきたかったんだよ・・・だって僕は君を----」
「お前はいつもそうだ!何にでも余裕だ!!勝手にすればいい!!!」
白川の言葉を打ち消して青木は怒鳴っていた。自分の動揺とは真逆な
白川の口調に頭に血が上り抑える事ができなかった。
「貢くんっ!」
そのまま席を立ち店から走り去る。背中に白川が呼ぶ声が聞こえた。
(人の気も知らないで!!!)
1ヶ月後、白川は早期退職制度を使い会社を去り、退職金を元手に起業した。
青木は白川が退職していくまでの間、話はおろか顔を合わすことさえしなかった・・・・。
160 :炬燵物語3/5:2011/11/26(土) 00:20:50.32 ID:qsL/dY6z0
「ただいま」
白川はいつもより少し遅めに帰宅した。
着ている背広から外の冷たい空気の匂いがしている。
「寒かったんじゃない?今日は湯豆腐にしたよ」
「うわぁ・・・・本当に炬燵出したんですね!
留守番電話でききましたよ。貢くん一人で大変だったでしょう?」
炬燵を見て子供のような反応を見せた白川に青木は目を細める。
「湯豆腐は炬燵でたべよう」
青木は炬燵の上に卓上コンロを設置し、昆布と豆腐入った黒塗りの土鍋を
五徳の上に置き着火する。
「湯豆腐なら、久しぶりに少し飲みませんか?」
自室で部屋着に着替えてリビングに戻って来た白川が言った。
最近めっきり酒に弱くなったと言う白川が自分からそう言い出すのは珍しい事だった。
「貢くんは焼酎梅干しお湯割りでいいですか?」
「私はそれでいいけど、淳司は何飲む?」
「ぬる燗にします。-----あああ僕がやります。
お湯なんか沸かさなくていいですよぉ。電子レンジでいいですからっ」
鍋に水を入れようとした青木を白川は制して、徳利に入った酒を
電子レンジのぬる燗モードで温め始めた。
青木をキッチンから追い出すと、白川は慣れた手つきで梅干しお湯割りの準備をする。
その様子をリビングの炬燵に脚を突っ込みながら、青木はほっこりとした幸福感を感じ、
口元に笑みを浮かべた。
昔はかなりの酒豪だった白川は飲むだけではなく作る方も長けていた。
ただの同じ焼酎の梅干しお湯割でも白川が作ると格段にうまかった。
161 :炬燵物語4/5:2011/11/26(土) 00:22:56.14 ID:qsL/dY6z0
卓上コンロの上で蓋の閉まった黒塗りの土鍋が一回ぐらりと揺れた。
(頃あいだな)
青木は判断すると土鍋のふたを取る。中では豆腐が切れ込みの入った昆布の上で
時折上がる大き目の泡にふるふると揺れている。
「淳司、もう食べれるよ」
「はい。今、行きます」
白川は盆に自分の青木の分の酒を乗せ、腕に電気ポットを引っかけて炬燵までやってくる。
青木の左隣の辺に正座をし炬燵布団を膝にかけた。
「脚のばせばいいのに」
「なんか癖なんです。そのうちのばさせていただきますよ」
白川はそういって青木に微笑んだ。
(なんか、信じられないな)
炬燵の中で湯豆腐をつまみに2人で晩酌してるなんて・・・・
青木は梅干しお湯割を飲み干すとそう思った。
青木の飲み干したグラスを受け取り白川がお代わりを作る。
「なんか、信じられませんね。2人でこんな風にしてお酒を飲んでるなんて」
白川の言葉に青木はびっくりして白川を見る。
「今、私もそう思ってたところだったんだよ!」
一瞬、お互い見つめあった後2人して笑いだす。
「ふふふ-----昔なら考えられなかった事ですね」
「あははは。本当だな・・・・言い争ってばかりいた」
「そうでしたか?」
若い頃飲め過ぎたと言う白川はぬる燗を舐めるようにゆっくりと味わっている。
その頬はほんのりと桃色に色づいている。
「そろそろちゃんと食事するか?」
青木が白川に問うと
「そうですね、僕がやります」
そう言って炬燵から立とうとした白川が次の瞬間、よろけてペタンと座り込んだ。
「淳司!どうした!!」
青木が立ちあがる。
「足が-----しびれて・・・・」
後でのばすと言っていた白川の脚は、結局ずっと正座のまま
小1時間座っていたせいで、しびれて感覚が無かった。
「痛い・・・・」
「はははは、淳司は座ってろ。私がやるから」
「でも、貢くんばかり家の事を・・・・」
「淳司は外に出てるんだから」
162 :炬燵物語5/5:2011/11/26(土) 00:25:23.10 ID:qsL/dY6z0
青木は茶碗とお椀を用意し、味噌汁の鍋に火をつけた。
(やっぱり気にしてたのか)
取締役まで勤め上げた退職金と年金でかなり生活には余裕がある。
暇があるのでマンション組合の役員も進んでやっている。
青木自身は全然負担にはなっていないのだ。
白川は食事中も徳利の酒を空けられずにいた・・・というよりは
何か勿体付けて飲んでいるように青木には見えた。
「淳司、しびれはとれたか?」
青木は悪戯っぽく炬燵の中の白川の足をつま先で突いた。
「ええ。もうすっかり----」
そう言うと白川は青木の足に脚をからめ、流し目で青木を見た。
『やめてください』と言う反応が返ってくるものだと予想していた青木は
白川の予想外の行動に理性のタガはあっさりとどこかへ吹っ飛んで行ってしまった。
突然炬燵がガタンと動き、次の瞬間白川は
仰向けに倒され、上体に青木の重さを感じていた。
「あっ、んぅ・・・・やっ」
白川の少し筋張った首筋に青木は唇を吸いつけ、右手は服の上から胸をまさぐる。
胸の手が乳首を探り当て、その刺激に白川の身体がビクッと跳ねる。
が、そこで青木のてが止まった。
「?貢くん??」
白川が青木の名を呼ぶと、返事の代わりに寝息が聞こえてきた
「もぅ・・・何故そこで寝れるんです?」
自分の胸に力なく置かれている青木の手を握ると
「貢くん-----大事な相談があったんですけどね・・・・」
白川は軽いため息をつき、青木の体を押し上げて自分の体を引き抜き、
立ちあがり青木の部屋から毛布を持ってくる。それを寝てしまった青木の
体にかけると、自らも一緒に潜りこむ。
青木の体を仰向けに転がすと、白川は白髪の多くなった青木の髪をそっとなでる。
「そろそろ、引退しようと思うんです。
それを飲みながら相談したかったんですよ。
またあの時のように怒らせたくないですから」
(本当はあの時、あなたに気持を打ち明けるつもりでいたんです。
でも、結局それは1年後になってしまいましたが・・・・)
白川は青木の胸の上にそっと自分の頭を乗せた。青木の心臓の音が聞こえ、白川は目を閉じた。
(明日の朝食の時にまた・・・・
これからはずーと最期の時まで2人で生きていくんですから)
おしまい
猫とコタツとかきごおり
2011年11月27日
炬燵物語
posted by moge at 22:40
| Comment(9)
| 801
強いて言うなら続きを読むのにはどちらに振り込めば……?
長年一人暮らしだったら、当たり前なのかもしれないけど、ここまで料理にこだわる人でこの年代の人だったら、急須でお茶入れるんじゃないかと…
コタツ出して疲れてんだよ、ペットボトル万歳じゃないか
ところで、私も振り込みしたいんですけど、ぱるるで大丈夫ですか…?
自分だけが口にする物には無頓着。
そういうことだろ?
おそれいりました
※6なるほど〜
枯れ専というけど老いても枯れてないのがいい
実際そんなに枯れてないし
※seesaaが重い時は反映されるまで時間がかかります。